坂:それ以外は非常に快適な状況でしたが、完成した途端に追い出されまして、今はこの建物はポンピドーセンターの上にはありません。でももう少ししたら、メスのレストランの増築としてこれがまた復活することになりました。そういう思い出深い場所の近所に事務所を借りて隔週で日本から通っています。このメスのことをお話しますが、ちょっと立って話しても良いですか?

平沼:もちろんです。ありがとうございます。

坂:このスライドは、メス市の地図です。パリから北東に急行列車で約90分のところにあります。我々の敷地は南側の空き地の何も無い所にありました。町の中心は駅の北側です。大聖堂があったりして敷地は離れていますが、ここでの建築はこの場所でしか出来ないことをしたい、メスという地域性と繋がりたいと強く思いました。

この写真はコンペの時に出した模型です。ギャラリーチューブという幅15m、長さ90mをモジュールとして色々な形に仕切れるんですが、そういうギャラリーを3つ45度ずつ振って上下に重ねました。このギャラリーの一番両先端にピクチャーウィンドウと呼んでいる、大きな窓がありまして、それによって景色を切り取っています。1番上のチューブはシャガールのステンドガラスで有名な大聖堂に向かってひとつ大きな絵画のように風景を切り取り、2つ目のチューブは中央駅を切り取っています。メス市というのはドイツの国境に近い町で、戦争が起こる度にドイツに占領されたので街中にドイツ式の建築があります。この駅もその内の1つですが、これは非常に重要な歴史のシンボルなのでそれをピクチャーウィンドウ化しました。そうやって町の離れている所にあっても町と繋がっている、それがギャラリーチューブなんです。これは全部RCと鉄骨でできているんですが、昔見た中国の帽子から着想を得ました。この中国の帽子を見つけた時、非常に建築的だなと思ったんです。編んだ竹が構造で、その上に油紙が防水のために敷いてあって、ひっくり返すと乾燥した葉っぱが重なって断熱材になっているんです。まさに建築と同じように断熱、構造、防水があるんです。こういう屋根を使いたいな、つくりたいなぁ、という思いがずっとあってそれを実現しました。これがそのパターンです。竹の帽子も全く同じこの六角形と三角形のパターンでできているんですが、屋根全体が六角形で出来ているんですね。なぜ六角形かというと、地図を見るとわかるように、フランスの形ってほぼ六角形をしています。フランス人にとって六角形というのは国のシンボルなんです。ですからルノーのマークもそうですが、フランスでは六角形のマークを使っている企業がすごく多い。フランスで初めてのコンペだったので、フランス人に気に入られようと思って、六角形を使いました、というのは冗談で本当は、ここにダイアグラムがありますが、例えばこの面を正方形や長方形のグリッドで割るとそれが一番簡単です。しかしご存知のように、正方形も長方形も水平剛性が取れないので当然筋交いを入れないといけません。そこで三角形で割れば当然水平剛性が取れますから一切ブレースは必要ありません。ところが、見てお分かりのように、正方形だと2方向からの材しかぶつからないけれど、筋交いが必要になってきます。三角形だと3方向から材が集まってくるので、ジョイントが非常に複雑になります。僕がずっと木造をやりながら思っていることは、鉄骨ではできないことをやりたい、木造でしか出来ないことをしたいということです。木造なのにやたらと鉄のジョイントを使って、木を接合するような構造をやっている人も多いのですが、それなら単に鉄骨の線材が木に置き変わっただけであって、鉄骨の方が向いてるような構造体です。そうじゃなくて木でしかできないことをやりたい。そこで、これを考えたんです。ですからなるべくジョイントを単純化しています。六角形には水平剛性はないですよね。ところが三角形が所々にあるために、筋交いがなくても完全に水平剛性が取れる唯一のジオメトリーになっています。さらに同じ面で木と木をぶつけようとすると、当然ここにジョイントが必要になってくるわけですがとにかくジョイントを作れば作るほど、金属に頼らないといけません。それで、実際編んでいるわけではありませんが、この竹のように編んだようにして、オーバーラップさせて同じ面にぶつけないようにしてジョイントをなくしました。そしてこの大きな屋根の剛性を取るために、上弦材と下弦材を同じレイヤーでつくって、その間に木の束と呼んでいる材で繋いでいます。これはある意味ではフィレンデルトラスになっているんです。このぶつかっているところに1本ボルトが刺されば、それ全部が緊結してジョイントになります。ですから一切複雑な金属のジョイントがなくて済む。そういうことでこの六角形のパターンを使っているという意味があったんです。これは完成した建物の夜の写真です。これがピクチャーウィンドウです。この写真は開館前のものですが、開館するとガラスのシャッターが全て開くようになっています。これも大聖堂をピクチャーウィンドウ化し中央のエレベーターと階段の鉄骨のコアから全て材を吊っています。吊り構造なので燃えしろ設計はしていますが、断面がとても小さくて済む。ガラスシャッターが開くと、外部のテラスのレストランやプラザ、そして内部が、連続していきます。この設計をしていた時期にたまたま韓国のゴルフクラブの設計を依頼されました。僕はゴルフをやらないのでゴルフクラブの中に何が入っているのか全然知りませんでした。小学生の時、父親に連れられてゴルフの打ちっ放しの練習場によく行っていたのでその時の思い出で、ゴルフのボールを乗せる木でできたティーがありました。今はプラスチックですけれど、そのイメージがあってこの構造体はティーの形をした構造体になっています。それも冗談なんですが、これも先ほどと同じでジオメトリーです。ただ先ほどの構造が引っ張り構造だったのに対して、これは単純な圧縮アーチです。圧縮材で押し合っているので切り込みを入れて仕口を作っても断面欠損にならない。ですから、そういう意味で一切同面にぶつかっていても金属のジョイントなしで、普通に仕口を作って組むことによって単純な圧縮アーチができています。これはカテドラルにあるようなクロスヴォールトが連続した形になっています。

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