芦澤:はい。先ほどハウスビジョンのお仕事を見させていただきましたが、非常に工期の短縮を考えられていて、あれは通常の住宅ですが、こういった災害復興や低所得者のための住宅にも使っていけそうなアイデアだなと思いました。なにかそういったお考えはあったのでしょうか。

坂:そうなんです。今政府が作っている仮設住宅はプアですから、もっと良い仮設住宅をつくらないといけないんです。仮設住宅を沢山つくっている大和リースと言う会社と親しくしているんですが、彼らは、もし次に東北地震級の地震があったら仮設住宅を作りきれない、数が足りないと言っています。そこで大和リースと一緒に発泡スチロールの周りにグラスファイバーを塗って作るパネルの新しい仮設住宅を開発し、その工場を発展途上国に作ることによってスラムの改善を図っています。そしていざ日本で地震があった時にはそれをちょっと止めて、日本のために仮設住宅を作れます。今はひとつの国の問題はひとつの国では解決しません。ですから、他の途上国と一緒になって、そういった国のエンプロイメント(雇用)も作ったりしながら、日本の災害にも備えていくということをしています。

芦澤:7年前にお話を伺わせていただいた時に、通常の美術館やホテルのお仕事と災害復興のお仕事の2つがあるとおっしゃっていましたよね。

坂:復興がいらないんです。以前女川で駅だけつくりました。復興は地元の建築家がいつもくっついてやるべきだと思っています。だから僕らが行って復興を手伝う必要はないと思うんです。そのため世界中の国のエマージェンシーだけ行くようにしています。

芦澤:なるほど。その時に坂さんがおっしゃったのが、その2軸がだんだん一緒になっていくということだったのですが、現状はどうなのかなと思いました。

坂:そうなんです。ずっと作品づくりと社会貢献の両立を目指してやっていたのですが、クライストチャーチの大聖堂を見てもあれはもう建築作品ですよね。だけど、ボランティアがやっている仕事です。だから今だんだんその境目がなくなってきているという実感がすごくあります。

平沼:7年前、建築の作品づくりで儲けたお金で支援しているってはっきりとおっしゃったのでそのことが僕らにとってすごく印象深かったのです。どんな建築家の方と比べても坂さんは少し特殊ですよね。支援を優先させて作品作りがどうなっていくのかということが気になります。

芦澤:安藤さんですと、30:30:30 で、教育:設計:ボランティア をしているとおっしゃっていました。坂さんはどうですか?

坂:例えば地震が起こったらそっちの方をやります。この間も、新しい島をつくりそこをリゾートホテルにするので敷地見学に来てくれとオーダーが来て、その時地震が起こったからキャンセルになりました。そういう時は災害の方を優先させるし、時期によって違います。ただ、教育はずっと続けたいと思っています。自分もアメリカですごくいい教育を受けたので、教育は自分の社会的な使命だと思っています。まぁ唯一、ボランタリーを養成しているようなものですからね(笑)。

会場 平沼 芦澤:アハハ。(笑)

平沼:坂さんにとって建築って何ですか?

坂:そんなこと聞かれたら建築って、難しいよね。しかし水みたいなものですよね。ないと生きていけない。

平沼:なるほど。ここで会場から質問をとってもいいですか?

坂:はい。

平沼:はい。勢いが良いですね。どうぞ。

質問者1:質問させていただきます。今回こちらのスライドで、木構造による曲面表現というのを多数見させていただきました。私は学生なのですが、20年、30年後、50 年後にこういった表現が古くなることや、今後の木造の可能性というのはどのようになっていくのかなと思いました。

坂:僕は建築が古くなるとは思わないです。例えば100年前、200年前に建てられた建物を見てもハッとするし、古いとは思わないですよね。だから僕は今作っているものが10年後や50年後に古くなるとは思いません。車だと例えば日本の車は、最近はみんなコンピューターでデザインされているからあまり変わらないけれど、70年代80年代って新しい車が出ると流線型が流行ったり、直線が流行ったり、格好いいなと思いました。しかしそれも2、3年したらもう鈍臭いなって思う。ところが、イタリアとかのスポーツカーだと、何十年前のものもいまだに新しくて新鮮で古いとは思わないです。だから我々は飽きない建築やものを作るべきで、流行を追っていたものはやっぱり古くなって飽きてしまいます。しかし流行を追わない建築は何年経っても古くならないと思います。

質問者1:ありがとうございました。

平沼:ありがとうございます。もう一方、どうぞ。

質問者2:貴重なご講演ありがとうございました。ショウナイホテルに泊まらせていただきましたが、地域性を活かされたとても良い建築だと思いました。それと同時に運営側の方も努力されていると思いました。運営があまり良くないと良い建築をつくられてもあまり評価されないということがあると思うのです。運営側と建築との関係性についてお聞きかせください。

坂:良いところに気がついていますね。ホテルに限らず私たちは良い施主に出会わなければ良い建築というのはつくれません。それは住宅だって、ホテルだって、工場だって何だって同じです。やはり使う側の人と意気投合して同じ価値観を共有できないと、どんな予算をもらっても絶対にうまくいかないのです。だから僕はいつも契約するときにまずコンセプトデザインだけの契約を簡単に結んで、それでプレゼンテーションをして、メインのコンセプトを気に入っていただけなければ降りることにしているんです。そのあとやっても絶対にうまくいかないので。向こうも分からないからその方がありがたいだろうし、とにかく自分と価値観をシェアできる。例えばホテルだと、オーナーとオペレーターは一緒ですから、やはりそれが合ってこそ良い作品ができて、泊まって気持ち良いと感じ、運営も素晴らしいと思ってくれたんだと思います。

質問者2:ありがとうございます。

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