坂:ここはちょうど高速道路がぶつかり、川沿いにパリに入っていく西の玄関口にあたります。地元の町から玄関口を象徴するような、シンボリックなものにしてくれと言われました。僕はあまりシンボル的な形を求めた設計をしないので、どうしようかと思いました。屋根にソーラーパネルを敷くような要求もありました。そこで屋根の上にソーラーパネルを敷いて見えなくするのではなく、太陽を受けるようなことを考えました。太陽光パネルを張った帆があって、これが太陽の角度を追って動いていく。そうすると常に太陽の方を向いて発電しますし、それによってガラス面に日陰を落とすという2つの役割を持っています。ですから行く時間によってこの形が変わるというシンボル性を持っています。このエッグみたいな形の部分も全部木造です。中はコンクリートですが、このクラッディングには防火基準も当然ないので全部木で作っています。入り口を入ると300mの長さの通りがあります。両側にお店がずっと続いていて、ロビーがあって4000人用のホールがあります。この先に行き、もう1つエレベーターで上がると、小さなロビーがあります。これはモザイクタイルで特別にイタリアのヴィチェンツァで作りました。昔、日本の箪笥とかに貼ってあった玉虫を思い出して、玉虫色に、光よって色が変わるようになっています。今赤っぽく見えますが、赤から緑に光の加減によって変わるタイルを開発してそれを使いました。中に入るとブドウ棚状の音楽ホールになっていて、この天井も全部紙管を使っています。紙管の角度を工夫したり、太さの違うものを上から照明を垂らしてきたり、色々な仕掛けがあるんです。それに合わせて色々なパターンの、紙管の天井を永田音響の音響設計家、豊田泰久さんに協力してもらってつくりました。この椅子も特注でつくったのですが、紙管の周りにクッションを巻いたものを連ねました。様々なところに紙を使っています。

これは去年の1月にオープンした静岡県の、富士山世界遺産センターです。これも構造は木造ではできませんでした。しかし、このクラッディングは木でつくっています。この隣にたまたま富士山から湧水が流れてきていたので、その水を冷暖房に使い、使った後の水を前の浅い水盤に流しています。コンペの時、多分ほとんどの人が、富士山の形をした、屋根を設計してくるんじゃないかと思いました。しかしそれでは富士山を目の前にして勝てっこないと思いました。僕は中学、高校ずっとラグビーをやっていました。山中湖の湖畔に合宿所があって、いつもそこに移る逆さ富士を見て綺麗だなと思っていました。そんなイメージが富士山にあったのであえて逆さ富士の形を作り、それを水盤に映して富士山の形を見せるということを考えました。これは木造ではないので特別なことはないのですが、1つ新しいことをしました。木をコンピューターのプログラムによって、三次元に自由にカットしていく機械を、山形のシェルターという会社が僕の推薦を受けてスイスから買ってきて、その試運転に使いました。しかし結局自分達で使いこなせなくて、スイスからエンジニアを呼び、実験的に加工機を使って木を3次元に加工しました。逆さ富士の中は斜路になっていて登山の疑似体験ができるようになっています。3合目や7合目の景色が素晴らしいハイビジョンの映像で映されています。元々は映像が何もなかったんです。しかし映像の設計家が、これだと人の影がプロジェクションで映って黒くなるし、映像が繋がらないのは面白くないと言いました。そこで高松次郎という昔の日本のアーティストで影の作家がいるのですが、彼の作品を思い出しました。この影は歩いている人の影です。これはプロジェクションしている影なんですね。それによって自分の影なのか、誰の影なのか、不思議な感覚になるんです。わざと単純にモノクロのプロジェクションで映すことによって、影の遊びをして、絵を繋いでいます。最後に一番上に上がると、お得意のピクチャーウィンドウで、また富士山を見せるという、非常に単純な仕掛けがあります。いつも同じことばかりやっているんですけれどね。これは、去年オープンした、大分県の湯布院の駅にある観光情報センターです。この横には、磯崎新さんが設計した駅があります。ここで何をやったかというと、ポンピドーセンターや、韓国のゴルフ場の時は、実はスイスから木を運んできたんですが、日本には、3次元にカットする技術がないため、複雑なアーチが作れないのですが、2次元の加工だったら日本でも機械があってつくれるので、2次元の加工だけを使ったアーチをつくりました。ここに磯崎さんの駅が見えますが、実はここにもクロスヴォールトが乗っているんです。磯崎さんは当時ヴォールト天井に凝っていました。この形も線材になっているから分かりにくいかもしれませんが、全部クロスヴォールトの集合で出来た形態なんです。

平沼:ありがとうございます。芦澤さんこの時点で何かご質問はありますか。

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