坂:(笑)だって、自分にとって一番おもしろい部分ですものね。でも偶に合わない人もいます。先日、お亡くなりになりましたが、川口衛先生はそうでしたね。僕はとても川口先生の構造が好きで、何度かコンペでお手合わせをお願いしたのですが、僕がアイデアを持っていくのに、川口先生は違うアイデアを持ってくる。もう毎回、毎回、揉めてですね。結局、一度も上手くいかなかったのです。

平沼:木村俊彦先生や川口衛先生など、あの世代の構造家は相当、頑固だったイメージを持っています(笑)。坂さん、ラ・セーヌ・ミュージカルのような再開発プロジェクトに与えられたプログラムには、どの程度メスを入れられますか。

坂:ほぼ全て、与えられたプログラム通りに設計しています。

平沼:地域との連携や計画地の活用法など、諸室・空間の表現方法だったり、構造デザインを含めた建築ヴォリュームだったり、与えられたプログラムを素直に受け止められていますか。

坂:要件を満たしていくコンペで、まずは勝ち抜かないといけないですからねぇ(笑)。

平沼:(笑)ありがとうございます。続きをお聞かせいただいてもいいですか。

坂:はい。この写真は昨年にオープンした、山形県庄内にある、スイデンテラスというホテルです。是非行ってください。一泊、8〜9000円、それくらいで泊まれます。ここの敷地に初めて行った時に、素晴らしい田んぼがざーっと海のそばまで広がっていたんです。農地転換して、もう建てられるようになっていました。良いランドスケープをやってくださいと施主に言われていたんですが、僕は水田を絶対壊したくなかった。水田は季節折々、水が張られたり青い芽が出てきたり、穂が金色になったり刈られたり、季節ごとに素晴らしいランドスケープをつくります。それを壊したくなくて施主に、「水田をそのまま残しましょう」と提案しました。ただ地目を農地転用した後で、この農地を農業として米をつくり営むのはよくない。そこでランドスケープとした扱いで米をつくり、自分たちで食べれば良いと考え、今も田植えをしていただいてるんです。とにかくランドスケープとして水田をそのまま残したいというのが一番大きなテーマです。そしてそこに浮いたような建築を作ろうと考えました。宿泊棟は全部木造です。面積が大きいので2階建てですが、部分部分、階段のコアをコンクリートにして法規に合う範囲の木造の面積に区切っていますが、あとは全部木造の軸組みで部屋をつくってます。この共用棟と呼んでいるところだけはLVLを折半上にジョイントして、折半構造でこのスパンを飛ばす屋根を作っています。これが折半上になってるところです。ここにたくさんの大きな集成材をゴロンと置いています。どうなっているのかと言うと中は階段になっていて開き止めとなっています。これもLVLでつくった耐力壁です。ただの壁を作りたくなかったので、このようなパターンで横力を支える耐力壁を造っています。部屋もです。ほとんど全ての部屋から水田が見えるようにした本当にシンプルな部屋です。紙管を使ったベッドボードがあり、紙管の家具もあります。行ったら是非見ていただきたいのが、所々にあるコートヤードです。これを設計しているときに、熊本地震が起こりました。それで熊本に、診断所の間仕切り作りのボランティアに毎週行きました。熊本で仮設住宅を作ったりした時に、民家の1階が潰れて落ちているのに屋根はほとんどそのまま残っているのを見たんです。それをブルドーザーでひいてせっかくきれいな屋根瓦を壊してゴミにしていた。それはもったいないと思って町役場にお願いして、全部貰ってきてランドスケープとして熊本の瓦を使わせてもらっています。これはその隣りにある施設で、ポンピドーセンターと同じ構造をもっと単純化して作ったものですが、屋根のドームがあって中に男女の温泉があります。ここからもやはり水田の景色が見えます。その隣のもう1つドーム状のソライと呼んでいる子供の施設があって、冬に雪が深くてもこの中で子供たちが遊べるという施設です。ボックスビームというのを今開発していて、ペーパーハニカムパネル、PHPと呼んでいます。この中によく扉の中に入っている壁のハニカムが挟まっていて、それをLVLで挟んでボックスビームにすることによって、集成材で梁を作るよりは安く作れて軽いものが作れます。ですから見た目には荒々しくてきれいではありませんが、安く、集成材を使わずに大スパンを飛ばせるようなものを開発しています。原研哉さんと企画したハウスビジョンという展示会の時に提案しLIXILと協働した、1か月間でできる家というのがあります。それはPHPパネルでフレームを作ります。それを工場でつくっている期間は除いて、1か月間で家が建てられます。そして、外壁、屋根は全て膜材でやってます。ジッパーで留めるだけです。ですから、半日で屋根と外壁ができる。例えば数年して飽きたら洋服を脱ぎ替えるようにまたジッパーを上げて脱がせ、その時の流行ってる柄の膜材をまた着せかえることができるんです。住宅を作ろうとしたって早くても5〜6ヶ月かかりますよね。それを1か月で作りたいということで挑戦しました。もう1つLIXILと取り組んだのが、オアシスというものです。これは何かと言うと、ここに空調と水回り、トイレが入っています。さらに場所を節約するために折りたたみ式のお風呂も作っているんですが、これのすごいところは配管が汚水も含めて全部上にあるということです。住宅を造るのになぜ時間がかかるのかと言うと、例えば骨組と外壁をつくった後に電気屋さんや設備屋さんが配管をやりに来ますよね。その後また大工さんが来てまた外壁を貼って、それで今度は電気屋さんが戻ってきてスイッチつけたりする。そういう人たちが行ったり来たりしない。ここでやりたかったことはシェルとスキンを完全に分けるということです。シェルをPHPの工場で作って来てパタパタっと数日間で建てる。そしてスキンは着せかえ人形のようにジッパーではる。ですから壁の中に、あるいは床の下に配管がないんです。そうした設備や電気の配管を床とか壁を通さないことによって完全に構造体とスキン・設備に分けて工事し、工事期間を短縮しました。また、斜めに裏に動く引き戸を開発しました。

これもPHPパネルでつくって完成した軽井沢の小さなブティックホテルです。形がうねってるのは、敷地に素晴らしい木が沢山あったので、それを切りたくなくて木と木の隙間を縫っていくようなそんな形でPHPパネルをドミノのように立てていって形を作ったからです。これは入り口のロビーのところです。各部屋が割と狭いですが、お風呂はヒノキの部屋でカーテンがあります。共用のリビングルームがあり、ガラスのシャッターによってソフトな感じが出ています。これも簡単な木造です。これは大分県の竹田市に造ったクアパークという温泉を使った、体力回復や治療をする施設です。これもコンペで取りました。歩き湯という屋内に温泉水のプールを作って、その中を行ったり来たりすることによって運動するというものです。しかし建物の中の小さなプールみたいな所を行ったり来たりしてもつまらない。そこで僕が提案したのは、せっかく景色が良いので歩き湯を外に作って、80mくらいのランドスケープの中を抜けて歩くようにするということでした。季節ごとに歩いて見るとまた景色が変わります。そういう景色を楽しみながら歩けるようにしました。冬場になると放射線の暖房機と、シートで仕切れるようになっています。それとコテージ風の宿泊施設とレストランがあります。この上には普通の温泉もあります。これはレシプロカル構造といいますが、ここでも大きな集成材を使いたくなかったので、丸太をかぶらむきした心材を安く買ってきて使いました。レシプロカルというのは、お互いがお互いを頼りあって、持ちかかりながら成り立っている構造です。これを例えば時計回りに置くのか反時計周りに置くのかによって、凹と凸が分けられるようになったんです。これを使って屋根をつくりました。2階にあるのは温泉です。男女でも家族でも楽しめるように水着をデザインしました。あまり装飾感のない水着を着て、ここを歩いて行って景色を楽しむ。途中で上がると露天風呂があり、人々が楽しめる、そういう施設です。これがレストラン棟で、紙管の構造です。それから宿泊棟です。ちょっと狭いコテージなので折りたたみ式になっていたり、この紙管の足を出すとテーブルになったりします。

平沼:圧倒されましたね。芦澤さんいかがですか?

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