田根:そうですね。考え続ける力の方が慣れてくると思います。最近レクチャーの機会が増えて喋りすぎるのも良くないなと思っています、笑。エストニアのプロジェクトでしっかり1つの場所をもう少し過去に掘り下げて、そこから知らなかった事実や発見が、実は世界を変えることが出来るかもしれないというのが考古学の大きなチャレンジだと思っているんです。考古学と同様に何かきっかけがあって掘り下げていくと、実は古代の歴史的なものを変える力があるようなものが発掘されたり、それによって見つけると歴史が動いたり、そういうことがもしかしたら建築も出来るのではないかということを思い始め、プロジェクトで学校を作りましょうとか、美術館を作りましょうとなれば、いきなりデザインをするよりも、もう1度その場所の起源に立ち返ることから考え始めるようになりました。アーキオロジカルリサーチという考古学的なリサーチ、いろいろ調べながらまず起源に戻り、そこから過去の時間軸をしっかりと研究するということをプロジェクトの最初にやっています。

これは去年、大きな展覧会を東京オペラシティアート ギャラリーと、TOTOギャラリー・間というところでやりました。TOTOギャラリー・間は建築家のいわゆる殿堂と言いますが、ギャラ間でいつかやってみたいと学生の頃も何度も見に行きながら思っていました。建築家はプロジェクトをやっているときはその設計に集中して、1個1個のことを一生懸命考えているんですが、展示の場を与えられると、いきなり何を考えているのか、何を建築としてやりたいのかを問われるようで、かなり恐ろしい。TOTOギャラリー・間は歴代の建築家の方々が展覧会をなさった場所なので、そのプレッシャーというのを非常に感じながらやるという経験でもありました。一方オペラシティの方はアートの美術館です。ここも数年に1回建築家の展覧会をやっています。ただそれが、世界的な建築家が初めて日本でお披露目をするような、いわゆるスター建築家が展覧会をするようなイメージがあったのですが、突然キュレーターの方に展覧会をやりませんかと声をかけられ、これはすごいチャンスではないかと思って、やってみようと思いました。

同時開催が決まりまして、その時Archaeology of the Futureという自分が考えていたことのひとつを形に出来ないかと。記憶という大きなテーマを何か考えてみたいと。実は記憶というものは昔のこと、過去のことと思われがちですが、記憶があるからこそ我々は何か未来を生み出せるのではないか、記憶の力は過去ではなくて、記憶があるからこそそれが未来が継続していく。これが実は記憶の力ではないかと、この展覧会を通して考え方がガラッと変わり、それをどうにか建築を通してやってみようと。細かい話ですが、ギャラ間とオペラシティで入場料の有無や施設のコンテクストを比較しながらどういう展示をしようか考えました。オペラシティは900平米という非常に大きな空間だったので展覧会というよりは、1つの空間体験というか、遺跡の中に迷い込んだような知らない世界の中で何か発見したり驚きを得たりできるように。ギャラリー・間は逆に200平米余りなのでより密度が高く、それを研究したり、リサーチをしたものが見られると。ある展示物によって何かを発見したり発掘したりを、資料などで色々関連することによって、知らないことを関連づけて物事を知ったりリサーチをそこでまたできないかと考えたんです。

芦澤:模型は作り直したり、新しく作ったものですか?

田根:大きい模型はね。確か200くらいありました。

芦澤:仕事は止まらなかったですか?

田根:いや、大打撃を受けていました、笑。

芦澤:ははは。

田根:去年1年ほとんど仕事は止まってしまいました。

芦澤:展覧会があるとそうですよね。

田根:いろんなクライアントの方に迷惑かけたり、僕達も経済的にかなり困ったり、スタッフも休みがなかったりしたのでしたが、それでもやり切ろうと。同時に、記憶というものが何なのかを探っていく時に、記憶というものは中々ふわっとして定義しづらいですが、12のテーマを提示しました。。例えばシンボル、日の丸とか十字架とか、そういう象徴的なものは実は記憶の原点ではないかと。大きなシンボリックなものは誰もが見間違いなく記憶することができると。それからインパクト、突然事件が起きたり、予期せぬ災害が起きたり、驚きのサプライズが起きたりといったインパクトというのは、最も強い記憶として刻み込まれること。またコード、例えば言葉やDNAやプログラミングとか、そういったことも実は記憶としていろんな記号的なもの、または暗号という隠された記号ですが、それすらも記憶ではないかという、そういったことを、オペラシティの最初の展示でコンセプチュアルに見せようとしました。

一方で、ギャラ間は3階のスペースを約21の進行中のプロジェクトで埋めて、逆にその上の階は600、700個くらいのいろんなものを小さいからこそオペラシティの方では逆に見せない濃密な空間を作りました。展示室には入ると突然膨大な物量の模型があって、棚ごとに各プロジェクトの内容やリサーチが貼ってあってその先に更にリサーチがあったり、相関的に見ていくということをしました。古墳のプロジェクトの向こうに等々力の住宅、その向こうにフォンテーヌブローの森の中に作る住宅があって、プロジェクトがある1つのテーマによって関連し、リンクし、覗きながら向こうが見えて繋がって見えたりという、マニアックなことをいろいろやっていました。上の4階は逆にモノが何もない空間を作るということをして、4面映像として流して、写真として見るというより体感的に少しでも出来ないかと・・・。

>>続きへ


| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | NEXT