芦澤:古墳のスタジアムの映像ですか?

田根:そうですね。同時にオペラシティの方では、7つの大きな代表作を各部屋に展示しました。最初のこのスペースは先ほどの12の記憶をテーマにしたリサーチや映像と7つのプロジェクトがあります。建築展にたくさん行った方や知っている専門家が言う、建築展が非常に難しいのは実物を見せられないという1つの問題。模型と図面と写真がフォーマットとしてあるんですが、音楽の展覧会と一緒で、音楽の楽器と楽譜があって、演奏家が弾いている写真があってもそこからバッハの音楽が分かるかというと、素人には伝わらないと。建築も同じくらい難しいと思っていて、この両展覧会では、写真と図面は見せない、模型もスケールをつけないという3つの、やらないといけないことを省いてみました。

芦澤:こういうリサーチは田根さんお1人でやられるのか、それともスタッフと一緒に掛け合い的にやられるのですか?

田根:基本は僕が編集長みたいになって、スタッフにあれ探して、こうしたいというのをひたすら指示しながら、スタッフ4人が半年くらいかけて議論しながら、記憶は何かみたいなことをずっとやっていましたね。

芦澤:それは設計が始まる前に6カ月くらいかけられるんですか?

田根:プロジェクトの時は大体2、3週間そういったリサーチをして、1回まずそこで止めて手を動かして、もう1回調べています。

芦澤:ではこちらは展覧会用に新たになさったということですか?

田根:そうですね。記憶という中々答えなんてないもの、建築にとって記憶とは何かみたいなことを、一生に1回くらいやってもいいかなと思ってやっていました。展示室は大きな模型から敷地模型、スケールはないんだけど、何となく他の情報を見ながら入れていく。同時にその建物に纏わるいろいろなものの記憶の集合体がこの建築を作っているというのを関連するようなもの、または関係ないけど関係が生まれるようなものが、この建物の模型の周りにあるという展示方法をしました。これは京都でやっている10 kyotoという、約1日に10t近く廃材を集めて、廃材の中にある釘を抜いて、京都の古い建物から出る古材を使って集成材にして継承するというプロジェクトの模型です。それで最後は、約10年の間にやってきた112のプロジェクトのコンペ案、実作もあります。

芦澤:プロジェクトが具現化する割合はどれくらいおありなんですか?結構高いですか?

田根:そうですね。コンペに負けなければ。途中でなくなったことは1回2回ありますけど、意外とどうにかして出来ている感じですね。

芦澤:優秀ですね。今、いろいろご説明いただいたんですけれども、展覧会だからこそできること、建築として展覧会をデザインされているのか、もしくは展覧会は展覧会で建築では出来ないことをしようとされたのか、その辺りをお聞きしたいです。

田根:そうですね。建築の展覧会もそうですが、幸い展覧会の会場構成のプロジェクトもいくつかやっていたりする上でよくそういうことを聞かれるんですが、例えば、建物自体が、1,000年持つかと言ったら、1個の建物は時と共に手を加えたり、直したりしないと残らないという意味で時間軸で捉えています。展覧会だと3か月の間に数万人の人々が入るという意味では空間の強度や体験という短期間ではあるけれども、短いからこそ密度のある空間であり、それを30年、50年、または100年の時間に伸ばした時に建物として残るようなに自分なりに考えてやっているところはあるかもしれないですね。考え方は変わらず時間というものを、人がどう集まるかとか、長く使えるかとか、そういう辺りは意識的に結構考えていますね。

平沼:僕は両方とも見てきました。例えば石上純也がトヨタやその前のヴェネツィアビエンナーレでやっていたように、もう見せるつもりは全くなくて、1つの展覧会を1つの建築のスケールダウンしたプロジェクトだと思って、必死にカーボンで建てていた。ああいう模型レベルで実験的にやってみるというものに対して、田根さんの展覧会を見た時、すごくリサーチマニアだと思ったのと、情報収集こそが形態を生み出し素材を扱うんだということをすごく真摯にやっているなあという印象を持ちました。逆に田根さんは他の建築家の展覧会と比較して、自分の展覧会をどう捉えていますか?

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